個人が発信し、富を築く時代の足音   September 2006
"個人がコンテンツを発信して、歌を歌ったりして、それが売れてお金持ちになる時代"

10年前、もしあなたが歌手としてデビューしたいと思ったとしたら、路上で演奏して音楽関係者の目に留まるか、デモテープを送って目に留まるか、ライブをして目に留まるか、オーディションで優勝するくらいの選択肢しかなかっただろう。

10年前、もしあなたが映画監督としてデビューしたいと思ったとしたら、既存の大きな業界メディアや有名な監督の下で下積みをするか、誰かのコネを使うか、何かの賞を獲るくらいの選択肢しかなかっただろう。

10年前、もしあなたが文章を書いて生計を立てたいと思ったとしたら、既存のメディア業界で働くか、幸運にも出版社に恵まれるか、何かの賞を獲ることといった選択肢くらいしかなかっただろう。

かつて、情報・コンテンツを発信することは、限られたごく少数の人にのみ許されたことだった。 新聞、雑誌、音楽CD、テレビ、書籍の出版、映画。 これらは、新聞社、出版社、レコード会社、映画会社、流通業者などが、エンドユーザー(最終消費者)とコンテンツの発信者との間に門番として存在し、必要とされる膨大な投資と規制によって、その参入障壁を強固なまでに築いていた。

しかし、今その仕組みがゆらいできている。

1.個人が容易にコンテンツを発信できるようになった理由

これまで、既存のメディアや流通構造が、門番としてルートをほぼ完全に掌握し、参入障壁を築いていた。 しかし、近年のテクノロジーの急激な進歩が、その壁を攻撃し、次第にもろくなってきている。 その理由は、パソコンなどの高度なテクノロジーが安価に入手できるようになり、ブロードバンドが浸透することで、コンテンツの制作、配信が既存のエスタブリッシュメントを介さずにできるようになったためだ。

つまり、こういうことだ。 1977年にスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックが、アップルⅡを売り出し、1981年マイクロソフト社製OSを搭載したIBM-PCが発売、そしてIBM-PC互換機が普及、windows-PCが普及し、PCつまりパソコンを一般化した。

「ウィンドウズ・パソコンは、無数の一般市民が自分のコンテンツをデジタル化して作家になることを、人類史上初めて可能にした。デジタル化されたコンテンツは、広い範囲へ配布できる」マイクロソフトのクレイグ・J・マンディCTO(最高技術責任者)は説明する。アップル-IBM-ウィンドウズ革命を通じて、文字、音楽、数字データ、地図、写真、さらには音声や映像など、重要な表現形式がすべてデジタル表示できるようになった。 「それによって、従来よりもずっと簡単に、費用もかからずに、デジタル・コンテンツを作り出す人々が生み出された。」[2]

つまり、windows-PCの普及以後、人々は、それ以前とは比べ物にならないほど、容易にそして安価にデジタル・コンテンツを作り出すことができるようになっていた。

そして、制作されたデジタル・コンテンツは、光ファイバー・ケーブルの敷設などがインフラの充実させ、ブロードバンド化を進ませた。 ブロードバンド化の進歩は、デジタル・データを信じられないほどのスピードで移動させることを可能にした。 かつて文書を送る方法は、郵便だった。もちろん国内でも、数日は平気でかかり、海外はといえば、さらに時間がかかった。 そして、ファクシミリが登場した。 当時のファクシミリは一台が約200万円。しかも図体がやたらとデカく、事務机の上をほぼ占有していた。[3]

しかし、それでもファクシミリは世界を変えた。 たった数分で、海外にさえ文書を送ることもできるようになり、絵を描いて送ることもできるようになった。 そして、インターネットが登場した。 たしかに、初期のインターネットはダイアルアップで回線速度も遅く、ファイルを送信するにはやや劣っていた。 しかし、それはPCで作成したデジタル・ファイルを迅速に、世界のどこでも送信することを可能にした。 それは、ファクシミリではできない量の文書、画像、音声、動画を、そしてなによりカラーで送信できるのだ。 そしてそれは、ブロードバンドの進展で加速した。

信じられないくらい安価で、信じられないくらいのスピードでデータを送信できるようになったのだ。 今、人々は、Eメールで連絡し合い、Skypeで会話をし(しかも無料で)、この前の休暇の写真を友人に送信し、動画をYouTubeにアップロードし、iTunesで音楽を購入し、自作の音声をポッドキャスティングし、合間に株取引をし、文書やスプレッドシートを送信してビジネスをしている。 時間を気にすることなく。

トーマス・フリードマンは、こう言う。 『写真術はかつては大きな器材を必要とし、地球の裏側で採掘されている銀の感光板を使っていた。私の時代でも、カメラで写真を撮り、フィルムをドラッグストアに持っていって、どこかの大きな現像所で現像してもらう必要があった。しかし、インターネットによって画像を電子メールに添付して世界中に送るのが可能になったいま、銀板フィルムの必要性は薄れた。いまではデジタル・カメラで撮影し、現像せずにアップロードすればいいだけだ。 かつてはサイモン&ガーファンクルのCDを買って聞かなければならなかったが、インターネットが活発になってきてからは、もっと適応性が幅広く、携帯しやすいものがほしいと思うようになる。サイモン&ガーファンクルをiPodにダウンロードできるようにしたい、と。近年のデジタル化のテクノロジーの進歩によって、それが可能になった。』[4]

もちろんテクノロジーの進歩は、PCの価格下落だけを示しているのではない。 たとえば、1984年時点の高解像度ビデオカメラの価格(2006年換算)は、58万5000ドル(約5,850万円)もした。 しかし、テクノロジーの進歩は、高性能のチップを大量に生産し安価で入手可能にした。 そのため、現在では、1984年に58万5000ドル(約5,850万円)もしたビデオカメラと同程度の品質のビデオカメラが、6,000ドル(約60万円)以下で手に入るのだ。[5]

1984年には、フェラーリF430を2台買うより高い製品を、今では国産の中古車を買うよりも安いのだ。

このことは、コンテンツ制作をしたいと考えている個人に強力な力となり、その勢いを加速させるのだ。 そこでは、わざわざ既存のエスタブリッシュメントたちの機嫌をうかがう必要もない。

つまり近年のテクノロジーの進歩は、個人が容易で安価にデジタル・コンテンツを作り出し、それを配布することを可能にしたのだ。

2.発信したコンテンツで富を築く時代

当然、個人が発信したコンテンツで富を築くのは、最近がはじまりではない。 ベストセラー作家やミリオンセラーの歌手、著名な映画監督たちは、すでにコンテンツを作ることで富を築いていた。 しかし、前述のようにインターネットの普及は、個人が容易にコンテンツを発信できるようにしたのだ。 つまり、それは、誰もが歌を作り、本を書き、ビデオや映画を撮ることを可能にし、さらにはそれらを容易にウェブ上で発信することができるようになったということなのだ。 そこには、エスタブリッシュメントに気に入られることも、到達しなければならないヒエラルキーも、大きな資金も、すべて必要ないのだ。

Mozilla Firefox(モジラ・ファイアフォックス)は、無料でオープンソースのウェブブラウザだ。(参照したwikipediaを見たのもファイアフォックス2.0ベータ2だ) 1.0のリリースまでに、ファイアフォックスは、フォーブスやウォールストリートジャーナルなどの様々なメディアに登場した。 また、まだ高校生だったブレーク・ロス(Blake Ross)は、「スプレッドファイアフォックス」を立ち上げ、2005年には最も人気のあるブログサイトとなった。愛好家たちの寄付でニューヨーク・タイムズに2ページの広告を掲載された。 ファイアフォックスは世界中のウェブやブログのネットワークをつくり、口コミマーケティングを広げた。[6]

334日で1億人にリーチし、2006年8月には2億ダウンロードを達成したこのファイアフォックスは、無料だ。 だからといって、達成された価値は毀損されない。 ファイアフォックスをインターネットのない世界でマーケティングしてみれば、その価値が明らかになるだろう。 たしかに、継続的なプレスリリースは、無料だ。しかし、そのほかのマーケティング手法は、有料だし、そもそもソフトを配信するには、どうしたらいいのだろう? かつてAOLが行なったように、CDを限りなく配ることだろうか?PCにバンドルさせることだろうか?(いや、マイクロソフトが許さないだろう)フロッピー・ディスクを郵送でもするのだろうか?

無料のものは、無料だからといって、すべての人がほしがるわけではない。 しかも、手に取る人は無料でも、送るほうは金がかかるのだ。 それをたった334日で、1億もの人に配信した事実。それは、驚異的なことなのだ。 考えてもみてほしい。1人当たりの配信コストが100円だとする。たったそれだけで、配信コストは100億円に達する。 マーケティングコストなしで、だ。 この驚異的な事実は、インターネットのネットワークのすさまじさを示している。

想像してみてほしい。 たった100円で、あるコンテンツが手に入るとする。それは、とてもたくさんの熱狂的なファンに愛されている。 たくさんのメディアに取り上げられ、たくさんの口コミマーケティングが起こっている。世界中から、ファンが来て100円を支払ってくれた。100万人。(1億人のたった100分の1だ) もっとたくさんの人が来てくれたら?もっと他にコンテンツがあったら?もっと他の提携話があったら? そこには、とてつもない富が隠れている。

日本で聞こえる足音  -映像という名のコンテンツ

『「やわらか戦車」は、クリエイターの「ラレコ」さんが一人でつくり、Web上で公開したFlashアニメのキャラクターで、ブログなどを介して口コミで広まり、一部で有名になったものだ。

ラレコさんのFlashアニメの特徴は、前述のとおり1人で完成させていること。そしてもう1つ、Web上で一般的なものになりつつあるブログや、有名素人サイトを通じて爆発的に広まっていることだ。

現在のところ、サクセスやライブドアを通じてラレコさんのもとに莫大な収入が発生しているわけではない。それでも、ラレコさんはコンテンツ更新のペースを上げることを心がけながら、Flashアニメを作り続けている。』

日本ですでに起きているこの実例は、"個人がコンテンツを発信して、富を築く時代"が実際にまさにおきつつあることを示している。

たしかに、制作者のラレコさんには、莫大な収入はまだ発生していないようだ。 しかし「やわらか戦車」が、ファンワークス社やライブドア社とともに、玩具、雑貨、映像、書籍などでの商品化が予定されている。 つまり、販売され、ロイヤリティが入ってくることで、大きな収入になる可能性はすでに存在しているのだ。 そう、すでに起こっているのだ。

ブログ+ポピュラリティ=$$$  -文章と呼ばれるコンテンツ

私は、毎日いくつものブログを見ている。まさに、ネット依存症のようだ。そのなかに、TechCrunchというブログがある。このブログには、日本語版があり、翻訳されたものが読めるので、とても楽だ。2005年6月11日に開始されたこのブログは、次世代の Web 2.0のサービスや企業をひたすら評価し紹介していくウェブログだ。[8] 36歳の起業家で創設者のマイケル・アリントン(Michael Arrington)は、自身のブログに150万人以上もの日常的にサイトをチェックする読者を持っている。

ただ、彼を特別なものにしている理由がある。それは、彼が毎月6万ドル(約600万円)もの広告収入を得ているということだ。(月1万ドルのバナー広告が6つ)2006年の初めから10倍になっている。そして、それは潜在的に将来、とんでもない富を生み出すことをも意味している。

もうひとつの例が、wired誌のライターだった4人により運営されているブログ、BoingBoingだ。このブログは、すでに2006年の推定広告収入が100万ドル(約1億円)となっている。 BoingBoingを始めたマーク・フローエンフェルダー(Mark Frauenfelder)は、1988年に紙ベースのサイバーパンク雑誌を始めた。その後、1995年にウェブサイトを始め、2000年1月21日にウェブログを開始した。 Business 2.0には、こう書かれている。 『彼は、他のサイトや特定のストーリーへの"ディープ・リンキング"によってサイトへのトラフィック(アクセス数)を築いていくことの力に気付いた。フローエンフェルダーは、思い出して言う。「1日に1,000ビジター(訪問者)を獲得したんだ。そして、僕は思った。"おおっ。こいつは楽しい。"」 そのうち、彼はBoingBoingに記事を投稿すればするほど、トラフィックが上昇していくことに気付いた。 そして、彼は記事をホットでヘビーなものにし続けるために、3人の友人をリクルートしてきた。2004年までに、1日に20,000ビジターを獲得し、多くの主流の雑誌サイトのライバルとなった。

しかし、チームは、ウェブホスティング料として毎月1,000ドル(約10万円)程度を支払っていた。そこで、フローエンフェルダーは、以前の同僚であったwired誌の創業編集者であったジョン・バッテル(John Battelle)に電話をして、サイトの広告を売り始めた。今日BoingBoingは、1日に325,000人のビジターがおり、BoingBoingのすべての広告枠が売れているわけではないが、今年の総収入は100万ドル(約1億円)を超える。フローエンフェルダーは言う。「いいビジネスになるってわかったんだ」』[9][10]

この流れに続くブログが、PopSugarを有するSugarPublishingだ。 サンフランシスコ在住32歳のブライアン・シュガー(Brian Sugar)と妻のリサ・シュガー(Lisa Sugar)によって作られた。 セレブのニュースやゴシップを扱うPopSugarをメインにSugarグループのサイトは合計で月間1300万ページビューと150万ユニークユーザーに提供している。Sugar Publishingは、翌年の終わりまで1セントも稼ぐ見込みがないが、開始2ヵ月後には、ボストンにあるベンチャーキャピタルから250万ドル(約2億5000万円)の増資の申し出があり、会社を1000万ドル(約10億円)の価値だと見込んでいる。 Sugarは、セールススタッフをまだ雇っていないにもかかわらず、バナナ・リパブリックがすでに7月のある週の広告すべてを買おうとアプローチしている。[9][11]

これらのブログは、ニュースのような速報性の強いものになっている。 このブログというかたちは、いわば新種のメディアとなっている。 TechCrunchのマイケル・アリントン(Michael Arrington)は、こう言っている。 『忠実なファンがコアとなって急速に成長し、関連分野のサービスも提供するようになったら、PopSugarのようなネットワークを競争相手にするのは大変手ごわい。古いスタイルのメディアではとてもたちうちできないほどコンテンツの制作費は安く、しかもはるかに速く提供される。(ここでいう「古いスタイルのメディア」にはCNetやWiredのようなインターネットメディアのパイオニアも含まれる)。昔はメディア企業を立ち上げるのは困難で、すでに存在する大手と競争するのは不可能だった。現在では、大手が困惑して取り残される番になっている。』[11]

低コスト体質と速報性。 このトピックの参考文献が、Business2.0のウェブ版、TechCrunchだということから見てもわかるように、非常に高い速報性は最新のホットなトピックをフォローするのにはもってこいなのだ。 つまり、月1回、週1回の発行は、質の高い、ある程度クオリティのフィルターがかかっている反面、タイムリーなものには弱いのだ。かつては、週1回でも、日に1回の新聞でもタイムリーだった。しかし、実際に、日に何回も訪れるビジターがいることからもわかるように、今やブログは、日に数回なのだ。毎日毎日、何回も号外を出していることと同じことなのだ。この速報性、この頻度に既存のメディアはついていけるだろうか。ついていけないとしたら、別の視点から差別化する必要があるだろう。

一般的に、音楽会社はアーティストの作ったレコードを所有している。なぜなら、彼らは生産、マーケティング、ディストリビューション(流通)のコストをすべて負担しているからだ。 しかし、Ice Cubeは、個人的に生産とマーケティングのコストを負担し、リスクを取ることにした。そうすることで、Ice Cubeは、自分の音楽を所有でき、アメリカにおける売上から上がる利益をすべて手に入れることができるからだ。 Ice Cubeのエージェントである、Beverly Hills management companyのCEO、ジェフ・クワティネッツ(Jeff kwatinetz)は、EMI傘下のVirginレーベルにIce Cubeの"Laugh Now, Cry Later"を流通してもらうことができた。 たしかに、それは経済的に大きなギャンブルだったが、報われた。

"Laugh Now, Cry Later"は、6月のBillboard200で初登場4位を達成し、全世界で500,000枚の売上を達成した。そして、Ice Cubeは、アメリカにおける利益のすべてを手に入れることができた。(EMIは、流通手数料と海外ライセンス権を手に入れる。)クワティネッツは言う。「小切手がやってくる音が聞こえるよ。我々は、音楽をTV番組にライセンスしたし、映画にもライセンスした。そして、それはすべて彼のポケットに入ってくるんだからね。」 音楽会社は、アーティストと聴衆との門番だった。もし、ビデオをMTV(有名音楽専門番組)で流したいのなら、メジャーなレーベルが必要だった。もし、CDをTower Recordsでディスプレイされたいのなら、巨大なレコード会社が必要だった。

レコード会社は、もはやそこまで強力な存在ではなくなっている。なぜなら、アーティストが自分たちの音楽をファンに届けるための方法が、たくさん出てきたからだ。 ガース・ブルックス(Garth Brooks, アメリカの著名なカントリー歌手)は、アルバムをウォルマート・ストアズとそのウェブサイトだけの独占販売をしている。Radiohead(イギリスのロックバンド)とEMI傘下のCapitol labelとの契約が満期を迎えたが、新しいところとの契約を急いではいない。7月、Radioheadのボーカルトム・ヨーク(Thom Yorke)はソロアルバムThe Eraserを、独立系レーベル、XLレコーディングス(XL Recordings)からリリースした。アルバムは、AppleのiTunes Music Storeでプロモーションされ、Billboard200で2位を獲得した。

Ice Cubeは、ファン基盤をウェブに広げている。彼のアルバムをプッシュするためにプロモーション会社は、DJにリスナーがIce Cubeのシングルを彼のMySpaceのページで聞けると言わせるというプロモーションを実施し、Ice Cubeの"友達"は、2,000から150,000人に急上昇した。[12]

2005年、180億本のビデオがオンラインで流れていた。2004年から50%の上昇率だ。 YouTubeでは、毎日1億本のビデオが視聴され65,000本の新しいビデオ・クリップがアップロードされている。月のユニークユーザーは、2000万ユーザーというモンスターサイトだ。[13] また、ネット界の巨人GoogleやYahooも同様にビデオのストリーミング・サイトを持っている。 AppleのiTunes Music Storeでは、1200万本のビデオ・クリップがそれぞれ1.99ドルで販売された。それもたった数ヶ月の間に、だ。

カリフォルニア州バークレーにある新興企業、Dabbleは、マスマーケット向けのマイクロムービースタジオだ。 ユーザーが自分のビデオをオンラインで制作、リミックス、ブラウズ、オーガナイズできるサービスを提供している。

ニューヨーク、ブルックリン在住のアリン・クラムリー(Arin Crumley)とスーザン・ブース(Susan Buice)は、仕事を辞め、プールしておいた1万ドルと何枚ものクレジット・カードと賞品でもらったパナソニックDVX-100デジタルビデオカメラを持って友人のところに飛んできた。それが、はじまりだった。 彼らは、撮影方法など知らなかったし、カメラマンはカメラにくわしくなかった。そして、彼らは今まで演じたこともなかったのだ。

プロジェクトに1年を費やし、若きヒーローは、7枚のクレジット・カードを限度額まで使いきり、"Four Eyed Monsters"はユタ州パークシティで行なわれたスラムダンス(Slamdance Film Festival)に受け入れられた。 (注:スラムダンス(Slamdance Film Festival)は、サンダンス・フィルム・フェスティバル(Sundance Film Festival)の期間中に同じパークシティで行なわれている映画祭。低予算、初監督作品に特化した映画祭。) それにより、音楽と映画の祭典South by Southwest、the Sonoma Valley Film Festival、Gen Artを含む18のフェスティバルに招待された。このことで、いくつもの賞と絶賛を受けた。

だが、実際にはそれらの多忙なツアーは何ももたらさなかった。18のフェスティバルの後、彼らはまだFour Eyed Monstersを映画館で上映するための流通契約を結ぶ相手がいなかったのだ。彼らには、資金もなく、アクセスするためのパイプラインもなかった。 その当時、ソーシャル・ネットワーキング・サイトのMySpaceには、今日の1億メンバーの約3分の1のメンバーがいた。 クラムリーとブースは、ソーシャル・ネットワーキング・サイトが関心を集め、バズ(口コミ)を作り出すことがわかっていた。

30歳以下を大多数とするユーザーの大群が、彼らのフィルムをブログやビデオ・クリップの投稿によってバイラル的にマーケティングしていった。インターネットは、かつてなかったほどのスケールで、光の速さのような口コミを広げていった。 彼らの戦略は、South by Southwestに出席したときに始まっていた。彼らは、毎日自分たちの経験をオンライン・ビデオ・ダイアリーとして投稿していった。

彼らは、映画のメイキングについて、リアリティ・ショーのような10本の3から5分のビデオ・ポッドキャストを月に1本のペースで投稿していった。 それらの投稿が、iTunes、YouTube、Google Video、MySpaceやその他のサイトを通じて65,000ダウンロードされるのに、長い時間はかからなかった。5月後半までに、最初の7本のエピソードが約50万回ダウンロードされた。

事実、マーケティングは非常に効果的で、最近のブルックリン美術館で上映された"Four Eyed Monsters"の470枚のチケットは、5分間で売り切れたほどだ。 クラムリーとブースが10番目の最後のポッドキャストを投稿した後の9月には、ボランティアによって組織された全国を周る上映パーティを計画している。 また、彼らは映画館抜きの新しいサービスを試みている。それは、フィルムメーカーが自分たちの作品を全国の美術館のシアターで上映してもらうというものだ。前売り券が売れれば売れるほど、よりたくさんのシアターが契約してくれるというものだ。同時に、彼らは、"Four Eyed Monsters"を自身のウェブサイトを通してリリースしている。[14]

個人が発信し、富を築く時代の3つの要因

"個人が発信し、富を築く時代"になってきた要因は、総じてクリエイターが消費者にダイレクトに接触できるようになったということだろう。かつては、新聞社、出版社、レコード会社、映画会社、流通業者などの仲介業者が、門番として間に入り、クリエイターが消費者にダイレクトにアクセスすることができなかったし、そもそもクリエイターが消費者にダイレクトにアクセスする手段が存在しなかった。 つまり、クリエイターにとっても、仲介業者は必要だったし、門番として力を持つことで仲介業者は生み出される富のほとんどを手中に収めてきた。 しかし、windowsの普及とインターネット、ブロードバンドの爆発的な普及が、その構造を変化させたのだ。

要因1: ネットワークの拡大によるダイレクトなアクセス 携帯電話すらなかった、かつてのアプローチ方法を想像してみても、圧倒的大多数の消費者に一介のクリエイターがアクセスする方法など、マスメディアや大手のレコード会社などの仲介業者を介さなければ、ほとんど不可能であった。 しかし、時が経ちインターネット、ブロードバンドの爆発的な普及で、クリエイターは消費者にダイレクトにアクセスできるようになった。たとえば、ウェブサイトをウェブ上にアップロードするだけで、理論的には世界のインターネット人口10億人にアピールできることになる。[15]

しかし、いくら素晴らしいコンテンツを発信していても、単にウェブサイトをつくるだけでは、貴重なコンテンツでさえウェブという広大な海に埋もれてしまう。そこで重要になってくるものが、要因2なのだ。

要因2: 優秀なコンテンツを発掘する仕組みの進展 いくらコンテンツが素晴らしくても、誰にも知られなければ、ないものも同然だ。この問題は、以前と変わらない。この世界には、どの仲介業者にも発掘されなかった、もしデビューしていればブレイクしたかもしれない人たちがたくさんいるだろう。そういう人たちは、スター製造システムにマッチしなかったり、仲介業者の人たちに単に気に入られなかっただけかもしれない。しかし、彼らは結局、たくさんの消費者にアクセスすることができずに、ほとんど誰にも知られることがなかったからこそ、ブレイクせずに終わってしまったのだ。 それは、インターネットが普及したとしても同じなのだ。いくらインターネット上に存在していたとしても、誰も見てもらえないのであれば、それは以前と同じように消えていってしまうのだ。

ただ、それらの状況が、今までより少しだけサポートする方向に進展しつつある。 まず、大きな転換点が1998年9月、2001年、2003年7月、2003年9月、2004年12月に起こる。 1998年9月、ラリー・ペイジとサーゲイ・ブリンという二人のスタンフォード大学院生によって設立された会社、Googleは、「世界中の情報を体系化し、アクセス可能で有益なものにすること」を使命に検索エンジンをさらに効率的で有用なものに変えた。Googleの普及によって、人々は自分たちの望む情報をインターネット上で検索して手に入れることができるようになった。それはある種の革命に近い。Google以前は、検索したとしてもインターネット上で知りたい情報が手に入りづらかった。それは、悪意あるSEO(サーチエンジン最適化、検索エンジンにヒットしやすいように意図的に改変すること)をしたウェブサイトが原因だったり、検索エンジンそのもののアルゴリズム上の問題だったりした。しかし、若き技術者2人がページランク(ページのランク付け。ページ A からページ B へのリンクを、ページ A によるページ B への投票として解釈。ページの重要度は、ページが受けた投票数によって決まるというもの。)という新たなテクノロジーを武器に検索エンジン業界に乗り込み、大きなシェアを握るに至った。このことで、人々は自分の望む情報により短い時間で、より効率的に近づくことができるようになったのだ。[16]

それは、新進気鋭のクリエイターが、より多くの人々(理論的には、全世界のインターネット・ユーザーすべて)の目に触れるという機会が訪れたことを意味した。 ただ、そこにはまだ問題があった。ウェブサイトにトラフィックを集める方法が、検索エンジンのみであるということは、検索エンジンに引っかからなければ、知られることはないということを同様に意味しているのだ。つまり、検索エンジンのみであれば、能動的に自分たちのことを知ってもらう必要があり、サイトを知ってもらうには、途方もない労力が必要なのだ。 想像してみてほしい。広大な海にひっそりと浮かぶ孤島。その孤島は非常に素晴らしい孤島だ。しかし、地図や検索エンジンを使って知ることはできるが、他の島があまりに多すぎるために広大な海に埋もれて見つかることはない。いったい、どうすればもっとたくさんの人にその孤島のことを知ってもらえるのだろうか?

2001年ころから、あることが広く知られるようになった。 それは、ブログ(blog)だ。ブログとは、インターネット上の日記のようなホームページのことだ。ブログがどういうインパクトを与えたのかというと、投稿やメンテナンスの簡単さだ。今まで、ウェブサイトを構築するためには、HTMLという言語について習熟する必要があり、それだけで普通の人にとってはハードルが高かった。また、メンテナンスに関しても、サーバを確保し、リンクや新規のページに対する内部リンクの構築など、非常に手間がかかり、働いていたりすれば、ほとんど無理で、誰でもやれるというものではなかった。その高いハードルのためウェブサイトは多数あったにせよ、発信したい人すべてが発信できるような環境ではなかった。しかし、ブログの広まりで、そのハードルが劇的に低くなったのだ。投稿するのにほとんどHTMLの知識を必要とせず、多数のブログサービス・プロバイダーが無料で基本的なサービスを提供したことから、メンテナンスがほとんど不必要となり、爆発的に普及し、2006年3月末では868万人もの人がブログをしている。[17]

ブログの普及は、普通の人でもインターネット上で容易に発言ができるようになったことを意味している。さらに、ブログはパーマリンク(記事毎に固有のURLがつけられていること)、コメント、トラックバックなど、その性質上、他のウェブページと容易にリンクできるようになっている。それにより、ブロガー(ブログをしている人)は、他のブログを読み、それを引用したり、コメントやトラックバックを行うことで他のブロガーとつながり、そのブロガーもまた、他のブロガーとつながることで、ある種のコミュニティ、ネットワーク、ブロゴスフィア(Blogosphere)をつくることになった。

ブロゴスフィアの進展によって、人類の歴史上かつてないほどの拡大範囲を持つハイスピードの口コミが起こることになった。 ある人が、種となる記事をブログに投稿する。そして、それを見た別のブロガーがその記事を引用して、また記事を投稿する。コメントをする。トラックバックをする。また別のブロガーがそれについて書く。そうして、たくさんの人、たくさんのブロガーが、記事にすることでブロゴスフィア上で信じられないほどのハイスピードの口コミが、言語が通じるかぎり拡大する。また、ブログには、そのブロゴスフィアにおける口コミをよりハイスピードにするシステムが備わっている。 それは、RSSフィードだ。

RSSとは「Really Simple Syndication」または「Rich Site Summary」の略で、ウェブサイトの更新情報を要約してネットに向けて配信するための文書フォーマットのことだ。[18]通常、ウェブサイトでは更新をしたとしても、サイトに来ないかぎりわからなかった。しかし、RRSフィードを配信することで、その更新を受動的に知ることができるようになる。そして、ブログには、RSSフィード配信機能が標準搭載されている。そのため、更新内容を更新してすぐに把握することができ、迅速に反応し、ブログに記事を投稿することを可能にしている。これが、ハイスピードになった要因だ。

さらにblogdigger、Feedster、Technoratiを代表とするブログ検索エンジンというブログに特化した検索エンジンが、その即時性を高めている。これらのブログ検索エンジンは、ブログの更新情報(Pingと呼ばれる)を受け取ることで、すぐにブログをリアルタイムで検索できるようになっている。また、ブログには、タグと呼ばれるユーザーが決定する分類が可能になっていることで、そのタグを用いる検索をすることで、さらに目的のブログに行き着けるようになってきている。

これらブログの特性が、ブロゴスフィアによるハイスピードで広範囲な口コミの拡大を促進した。前述のファイアフォックスの拡大は、ブロゴスフィアによるハイスピードで広範囲の口コミが起こって達成されたことは述べたとおりだ。また前述のマイケル・アリントンが主宰するTechCrunchも、読者の60%が自分のブログを持っており、そこからさらに多くの読者に情報を広めているために、短期間での拡大が起こった。[19]

検索エンジンとブログの進展だけでも、十分クリエイターが消費者にアピールする場ができたといってもいいかもしれない。 なぜなら、「やわらか戦車」などは、それらによって広がっていったものだからだ。 ただ、よりバイラル的な広がりをもたらすものの出現により、その環境がまた整ってきたことは否めない。 それは、ソーシャル・サイトだ。

2003年7月。トム・アンダーソン(Tom Anderson)クリス・デウォルフ(Chris DeWolfe)、ほかプログラマー数名があるサイトを立ち上げた。その名は、MySpace。MySpace(マイスペース)は、会員に対し、プロフィール、ブログ、グループ、音楽ファイル、写真アルバム、会員間メールサービスなどインタラクティブなサービスを提供して会員同士の親交を広げるためのコミュニティ・サイトである。[20]

たしかに、それ以前に1995年にできたClassmates.comを代表として数々のソーシャル・ネットーワーキング・サービスは存在した。しかし、MySpaceが音楽関係者をコア・ユーザーとして保有することで、同業のFacebookが大学のコミュニティをコア・ユーザーとすることで、その存在を確立させた。(日本で、代表的なサイトには、mixiやGREEがあるため、日本でもその基盤ができつつあると言える)現在では、MySpaceは、1億ユーザー以上を持つまでになっている。さらに、その影響力からルパート・マードック率いるNews Corpに5億8000万ドル(約580億円)で買収されたことからも、その可能性は明らかだ。

そしてSNSは、その名前からわかるように、ある種のコミュニティを確立することになる。そのサイト、そのスペースには、友人たちがいて、それらの知人や興味、関心の共通する人たちとつながっていく。 つまり、その存在そのもの、性質そのものに、口コミ、バイラル的な広がりを見せる要素が含まれているのだ。関心のある人が、友人に話す。企業が広告として話すのではなく、信頼できる友人から薦められる。そうすることで、より協力にそのコミュニティ内、コミュニティにつながっている人たちにバイラル的に情報が広がっていく。前述のIce Cubeや"Four Eyed Monsters"がMySpaceを用いて行なったマーケティングを見れば、それは明らかだろう。

オンライン・ブックマーキング・データをシェアするというコンセプトを持ったitList.comが1996年4月に開始された7年後の2003年9月。お気に入りのリンクを維持、シェア、発見するというソーシャル・ブックマーキング・サイトの代表例のDel.icio.usが、カーネギー・メロン大学を卒業した後、ウォール・ストリートでプログラマーとして働いていたジョシュア・スキャッター(Joshua Schachter)によって立ち上げられた。2005年12月9日にYahooによって3100万ドル(約31億円)で買収されたことで知られるこのサイトでは、ユーザーは、自分のブックマークに自由に選んだキーワードをタグすることができる。タグ毎に見ていくことができ、ポピュラーなもの、最近のものという分類がなされている。そのため、多くの人が面白いと思った記事、ページがあれば、ブックマークされ、Del.icio.usに反映されることで自動的に他のたくさんの人の目に触れることになり、結果、正のフィードバックループが起こり、優秀なコンテンツが掘り出されることになる。また、Googleがアルゴリズム主導で、分類していくのに対して、Del.icio.usは、人々が実際に何に関心があるのかで分類している。[21]

2004年12月9日。 ケビン・ローズ(Kevin Rose)という若者が、あるサイトを立ち上げた。その名は、Digg。Diggは、その他のソーシャル・サイトのように、ユーザー・コミュニティによって、インターネット上のニュース、記事を投稿され、他のユーザーがその投稿を読み、支持するかどうかを決める。もし、その投稿が素晴らしければ、たくさんの支持を得ることになり、フロントページに掲載され、何百万ものDiggへのビジターの目にさらされることになる、という仕組みを持つソーシャル・ニュース・サイトだ。 その名の通り、ユーザー主導で優秀なストーリーをDiggつまりDig(発掘する)ことがこのサイトの目的なのだ。 ソーシャル・ブックマーキング・サイトと同様に、検索アルゴリズムによってではなく、人の興味、関心、選好によって、そのコンテンツが掘り出されていくシステムになっている。そのため、ソーシャル・サイトならではの正のフィードバックループが起こり、優秀なコンテンツは既存メディアよりも効率的に、かつ迅速に発掘することを可能にしている。

ソーシャル・サイトの充実は、ネットワークの進展を如実に示しているといえる。たとえば、検索エンジンで検索されるためにインデックス化されるのでさえ、現実には数日はかかる。そのため、リアルタイムで

事例がまだ少数に限られている一番の理由は、ユーザー層の問題がある。 人口の大部分を占めるインターネットについての知識が少しといったユーザーが利用すること、つまり大多数が利用する必要がある。 現時点では、ブログも母集団が必要だと思われ、さらにまだソーシャル・ネットワーキング・サイト以外のサービス、つまりソーシャル・ブックマーキング、ソーシャル・ニュース・サイトのメイン・ユーザーは、ほとんどが20代や30代の高い収入を得ているテクノロジーに高い親和性を持つ男性というプロファイルに当たる。つまり、ほとんどはアーリーアダプター(早期採用者)なのだ。そのため、強力な口コミ効果を手に入れられるカテゴリーは、必然的に限定される。

ソーシャル・ネットーワーキング・サービス、ソーシャル・ブックマーキング、ソーシャル・ニュース・サイトが、なぜ大きな影響があるのかというと、検索エンジンを介しないトラフィックがあるからだ。 通常、ウェブ上をサーフィンする人は、検索エンジンで能動的に探す。しかし、それは同時に、能動的に探すという労力を伴うことであり、探そうという意思なくしては探しえないのだ。そのことは、素晴らしいコンテンツに出会える可能性を大きく狭めることになる。しかし、これらソーシャル・サイト(とブロゴスフィア)は、素晴らしいコンテンツを表に出しやすい構造になっている。誰かが、あるコンテンツに非常に強い関心を持つ、するとそれをブログやソーシャル・サイトに影響を与える。そして、他の人たちもそれに興味・関心を抱き、ソーシャル・サイト内で影響を与える。すると、ソーシャル・サイト内でそのコンテンツが話題になる。すると、さらにそのコンテンツが多数の目にさらされることになる。これらはすべて、検索エンジンを介さない流れなのだ。この流れに参加する条件は、ただひとつ。MySpace、Facebook、Digg、Del.icio.usなどのソーシャル・サイトを訪れていればいいのだ。わざわざ検索エンジンで探し求める必要はない。

検索エンジン、ブロゴスフィア、ソーシャル・サイトの広がりによって、たくさんのチャネルから優秀なコンテンツを発掘する仕組みが進展することになった。そして、これらは相互に密接に関連しており、いずれかで火が付けば、すべてに波及することになる。それは、これらのシステムがより速いスピードで、より広範囲に影響を及ぼすことを意味している。つまり、これらのネットワークで注目されるほどの優秀なコンテンツは、ほとんど一夜のような勢いでブレイクする可能性を意味しているのだ。そして、それを達成するのに、既存のメディア、仲介業者を介することがないのだ。

要因3: 流通チャネルの進展 まず、言っておかなければならないのは、優秀なコンテンツの存在を多数の消費者に知らせることで、その存在が確立され、既存のメディアや仲介業者を惹きつけることになるということだ。 「やわらか戦車」が、ファンワークス社やライブドア社に注目され、商品化されるように、優秀な音楽、映画、文章などは、既存のメディアや仲介業者が狙っていると言える。なぜなら、すでに知名度と優秀性が証明されているのだから、エスタブリッシュメントにとっては、安全な賭けだからだ。 このような流れでいったとしても、"個人がコンテンツを発信し、富を築く"時代になったことになる。 なぜなら、以前は発信することさえできなかったのだから。

しかし、時代はさらに一歩進んでいる。まず、前述のガース・ブルックスによるウォルマート・ストアズでの独占販売。 Radioheadのボーカルトム・ヨークによるAppleのiTunes Music Storeでのプロモーションと販売。そして、"Four Eyed Monsters"の自身のウェブサイトを通してのリリース。これらの販売チャネルを用いることで、コンテンツを流通させ、富を築くことができる。 さらに、前述のMySpaceは、音楽販売に参入してきた。約300万のレコード会社と契約していないインディーズ系バンドの楽曲の販売をするということだ。楽曲の価格は各バンドが決定できる。[22]

音楽関連をコア・ユーザーに持つMySpaceが音楽販売に参入したことで、この流れは加速していくことになる。もちろん、MySpaceの音楽販売が成功するかどうかはわからない。しかし、MySpaceができなかったとしても、AppleのiTunes Music Storeかどこか他の企業がそれを達成することだろう。それはつまり、既存の大きな仲介業者を介さない流通チャネルが進展するということだ。利益のほとんどを仲介業者に取られることがなく、自分たちの権利を保つことができる。たしかに、これらの流通チャネルを利用することで、音楽販売の利益の大きな部分を仲介手数料で取られることだろう。しかし、販売リスクが低い以上、音楽の権利まで取られるということはないだろうから、各種ライセンス料などの利益は確保できるので、既存のケースよりもメリットが大きいのだ。しかも、有名になればなるほど、発言権が強くなるのは言うまでもない。

また、映画のダウンロード販売に関しても、AppleのiTunesでの販売が予定されているそうであり、またAmazonも同様のサービスを開始する予定だそうだ。[23]現時点ですぐに個人が映画をコンテンツとして提供して富を築くには、"Four Eyed Monsters"のようなやり方や、既存の仲介業者を使うことかもしれない。しかし、いずれ映画のダウンロード・サービスの普及などのインフラの整備により、それが可能になるだろう。

ブログなどの文章というコンテンツから富を築くには、TechCrunch やBoingBoingなどが広告で利益を得ているため、それが可能であることは実証されている。ただ、今後も広告収入によるのかどうかは、わからない。

さらに既存の仲介業者が、完全に消えてしまうわけではないだろう。

ただ言えるのは、そのコンテンツが優秀であれば、富を引き付けるものであるということだ。 人々が、昔から映画館のチケット、映画のDVD、音楽CD、書籍、雑誌、ソフトウェア、関連商品などに大金を払ってきているのだ。そして、時代によって変化するのは、発信するのが個人主体であることと、発掘方法と、流通チャネルだけで、優秀なコンテンツにお金を支払うということが変わったわけではないのだ。 そして、誰でもコンテンツを発信できるようになるからこそ、そのクオリティが重要になってくる。 さらに、数の多さ、俗に言う"ロングテール"によって、よりニッチなコンテンツにも脚光を浴びることになるだろう。

時代が変わり、誰でも表現者になれ、同時に消費者になる時代になる。 それにより、誰でもというわけではないが、少数の優秀なコンテンツのクリエイターたちは富を築くことになる。 それに参加するチャンスは、ほぼ誰にでも与えられている。

このことは、インターネットにおける小さな変化にすぎないだろう。 そして、時代はどんどん変化していく。

急激な変化に取り残されないように、シートベルトをしっかりと付けておくことにしよう。

竹内正浩

参考文献:
2. 『フラット化する世界(上)』トーマス・フリードマン(著)P.83,84
3. 『会社を辞めて会社をおこせ』南原竜樹(著) P.132
4. 『フラット化する世界(上)』トーマス・フリードマン(著)P.105
5. FAST COMPANY JULY/AUGUST 2006 P.68
6. 『フラット化する世界(上)』トーマス・フリードマン(著)P.161
Mozilla Firefox. (2006, August 31). In Wikipedia, The Free Encyclopedia. Retrieved 17:10, September 1, 2006, from http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Mozilla_Firefox&oldid=73050160 『ブログスフィア』ロバート・スコーブル(著)P.59-61
7. Itmedia http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0602/27/news042.html Retrieved on 2006-09-02
8. TechCrunch Japanese http://jp.techcrunch.com/about-techcrunch/ Retrieved on 2006-09-02
9. Business 2.0 "Blogging for Dollars"
http://money.cnn.com/magazines/business2/business2_archive/2006/09/01/8384325/index.htm Retrieved on 2006-09-02
10. Boing Boing. (2006, July 12). In Wikipedia, The Free Encyclopedia. Retrieved 15:31, September 3, 2006, from http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Boing_Boing&oldid=63423479
11. TechCrunch Japanese http://jp.techcrunch.com/archives/hear-about-popsugar-yet/ Retrieved on 2006-09-03
12. FORTUNE August 21, 2006 P.33
13. YouTube http://www.youtube.com/t/fact_sheet Retrieved on 2006-09-04
14. FAST COMPANY JULY/AUGUST 2006 P.64-66
15. Would Internet Usage Statistics and Population Stats http://www.internetworldstats.com/stats.htm Retrieved on 2006-09-05
16. Google http://www.google.co.jp/intl/ja/corporate/index.html Retrieved on 2006-09-05
17. 総務省 http://www.soumu.go.jp/s-news/2006/060413_2.html  Retrieved on 2006-09-05
18. 『ウェブ進化論』梅田望夫(著)P.141,142
19. TechCrunch Japanese http://jp.techcrunch.com/archives/web-20-the-24-minute-script/#more-470 Retrieved on 2006-09-05
20. MySpace. (2006, 9月 4). Wikipedia, . Retrieved 18:56, 9月 4, 2006 from http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=MySpace&oldid=7474049.
21. Del.icio.us. (2006, September 3). In Wikipedia, The Free Encyclopedia. Retrieved 05:01, September 5, 2006, from http://en.wikipedia.org/w/index.php?title=Del.icio.us&oldid=73560327
22. Itmedia http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0609/04/news036.html Retrieved on 2006-09-05
23. TechCrunch Japanese http://jp.techcrunch.com/archives/itunes-to-have-movie-downloads-this-month/ Retrieved on 2006-09-05
サイトマップ: 特別レポート 商品:
 • トップページ
 • プロフィール
 • ブログ(1,000冊読書)
 • English
 • リンク集
 • お問い合わせ
 • 特別レポート
 • 無料メールマガジン
 • エッセイ
 • 「おっとり系」公式サイト
 • セミナー収録CD・DVD
 • 講演・セミナー・集中講座
 • コンサルティング
 • ベンチャー参画(参画・戦略策定)